ジャンク特選落語
「サンタが愚痴にやって来る」

作・JUNK-O

 えー、毎度ばかばかしいお話を、一席。

 クリスマスの日に、人間達から神様に、大量の苦情が届きまして。なんでも、サンタクロースが、プレゼントを配り間違えてるてぇんで……。
 ほおっておくわけにも参りませんので、神様が、サンタクロースを呼び寄せました。
 白い雲の上に、サンタクロースがひれ伏しております。と、
 「神様のおなりーっ。」
 ってんで、一段高くなった板敷きに、神様が、さっと奥のふすまを開けて、長袴を引きずりながら、おでましにな……ったかどうだか知りませんが。
(神)「これ、サンタクロース。おもてを上げい。
 「その方、今年のクリスマス・プレゼントを配りおる際、忍ペンまん丸とピカチュウの人形を入れ間違うはまだしも、ケーキと燃えるゴミを間違うなど、職務に、はなはだ怠慢であったと申すが、しかと相違ないか?」
(サンタ)「へへーっ。面目ございません。誠にその通りでございます。かくなる上は、いかなるお裁きでも、ご存分にお願い奉ります。」
(神)「うむ。殊勝である。しかし、それにしても何故(なにゆえ)、かかる間違いをなした? 苦しゅうない申して見よ。」
(サンタ)「いえ、それがね。えー。だから……。」
(ミカエル)「これこれ、何を申しておるか、さっぱりわからん。神様もああおっしゃっておいでだ。いいたいことがあれば、存分に申し上げよ。」
 みかねました大天使ミカエルが、おもわず、うながします。
(サンタ)「そうすか? そんなら言っちゃいますけどね。なんていうか、ばかばかしくなっちゃってね。……そうでしょ? クリスマスてぇと、たいていの人は、好きな人と仲良く、楽しくやってるのにさ。こっちは独身(ひとり)もんの、ひとりぐらし。話をする相手といやぁトナカイばかりで。いっつも、一人っきりで。クリスマスったって、一日中働きづめで働くだけですからね。
 「え? わざと? いえいえ、滅相もねぇ。わざとじゃありませんや。ただね、労働意欲ってのか、やる気ってのがあんまり出なくなっちまってね。」
(神)「なるほど。話を聞いてみれば、わからぬ事もない。ううむ、どうしたものか……。
「おお、そうじゃ。こうしたらどうじゃ。」
(サンタ)「そりゃあ、いいや。」
(神)「これこれ、まだ何も言っておらん。」
(サンタ)「道理で何も聞こえない。」
(神)「何を申しておる、ふざけるでないぞ・・・・。で、どうじゃ、その方、妻をめとる気はないか? いや、だから、結婚をする気はないかというのじゃ。」
(サンタ)「結婚? 結婚てぇとあの嫁さんをもらうってんで? 参ったな、こりゃ。参ったな。参った、参った。」
(神)「一人で、降参しておる。で、どうなんだ?」
(サンタ)「……えへへ、欲しい!
(神)「そうか、よし。ミカエル、すぐに、サンタの相手を見つけて参れ!」
(ミカエル)「へへーっ。」

 ってんで、神様、サンタも可愛い奥さんがいたら、もう一度、しっかり働くようになるだろうと考えまして、大天使をサンタの花嫁探しに飛ばしました。
 まあ、そこは、天使ですから、「愛のキューピット」は本職で、すぐさま手頃な娘を・・・・、手頃なんて言っちゃいけませんが、サンタに似合いの娘を探して参ります。
 もちろん、ハートに矢を射かけてありますから、一目会ったとたんに、サンタと娘は熱烈な恋に落ちまして、とんとんと結婚ということに相成ります。甘い新婚生活が始まりました。
 ま、神様の思惑がぴたりと当たったということで、その次のクリスマスには、サンタは実によく働いたそうですな。勢いに乗りすぎて、見そびれた子供に、「ポケモン」の爆発シーンの入ったビデオを届けちゃって、大騒ぎを引き起こしたてぇくらいで。

 それから、数年がたちまして。
 神様、このところサンタがよく働いてるってんで、お褒めの言葉を下されようと、ひさびさにサンタを呼び出しました。
(神)「おお、サンタか。よく参った。このところよく働いているようじゃな。余はうれしいぞ。」
(サンタ)「ははー。ありがたきお言葉、痛み入ります。」
(神)「ところで、妻とはその後、うまく行っておるか。苦しゅうない申して見よ。」
(サンタ)「いえ、それがね。えー。だから……。」
(ミカエル)「これこれ、何を申しておるか、さっぱりわからん。神様もああおっしゃっておいでだ。いいたいことがあれば、存分に申し上げよ。」
 みかねました大天使ミカエルが、おもわず、うながします。
(サンタ)「そうすか? そんなら言っちゃいますけどね・・・・」
(神)「ちょっと待て、余はデジャ・ヴュを覚える。」
(サンタ)「神様とミカエル様の前でこう言うのもなんですが、あれはひどい女ですね。」
(神)「何? そんなにひどいか。」
(サンタ)「ひどいもなに。初めはよかったんですよ。新婚の時は、いろいろと、あれがこれだったりして、ねぇ・・・・。この、すけべ!」
(神)「さっぱりわからぬ。」
(サンタ)「ところが、毎日顔を合わしてるんで、おたがい生活に新鮮味が薄らぐんですね。そのうち、『あんたはなんだって、この家計の苦しい時に、毎日家でごろごろしてんだいっ。一年で一日しか働かないじゃないか。ちょっとは、アルバイトにでも行ってごらんっ!』、なんてね、あっしを責めるようになってきたんですよ。
 でもね、あっしだって、遊んでるわけじゃない。子供達からのファンレターの返事を書いたり、トナカイの世話をしたり、まあ、一日・・・・、30分くらいは、仕事をしてる。」
(神)「そりゃ、少ないよ。」
(サンタ)「で、まあ、最近は仕方ないんで、宅急便のアルバイトを始めたんですよ。『トナカイ急便』てのを始めたんですが、神様、あれですね、世の中には空飛ぶトナカイよりも速い生き物がいるんですね。飛脚だとか、猫だとか、鶴・・・・。
「でもね、カカアのやつ、そう言っておいて、自分は一日中、テレビ眺めて、寝っころがってるんですぜ。もう、あっしは、情けなくて。」
(神)「ううむ。それはすまぬことをした。まったく、余の見込み違いじゃ。許せ。」
(サンタ)「何とか別れさせてくれませんか。」
(神)「それは・・・・、神の立場としてはちょっと。」
(サンタ)「じゃね、また新しくって、ピチピチしたのを二・三人見つくろってくれねぇかなぁ。」
(神)「な、なんと言う不謹慎な。」
(サンタ)「でも、アラー様の方じゃ、何人も妻が持てるって言うじゃありませんか。あっち、行っちゃおうかな。」
(ミカエル)「これっ! 不遜な奴。神の御前で、何を申すか! ひかえろ、成敗してくれるっ!!」
(サンタ)「すみません、すみません。いや、ちょっと、言ってみたかっただけで。お許しをー。た、助けてぇ。」
(神)「何か、頭が痛くなってきたぞ。まあよい、ミカエル、許してやれ。
「それはともかく、サンタ、仕事はずいぶんと熱心にやっておると聞いておるがな。」
(サンタ)「そりゃあ、もう、仕事は一番楽しい。」
(神)「夫婦仲が悪くても、仕事に支障はないのか。意欲は落ちないのか?」
(サンタ)「いや、仕事は楽しくて。待ち遠しくって仕方ないんです。いや、だってね、イブの日だけは、カカアの顔を見ずにすむ。」

 お後がよろしいようで・・・・。f(_ _)m