■  短 歌  1999年春夏期作集 ■                     いまのまさし     『空・空・空』  鳥も失せ日影も薄き今日なれば空を探しに行かねばならぬ  もちろんさ、思い出の人は誰も皆いい人ばかり夕空は茜  ばかやろう!どんな奴にも平等に明るい空のある不公平  「空」「空」「空」幾度書いてもその文字が悲しい顔に見える春の日(*)              からす  硬質の空に黒々うがたれて鴉工場の屋根に動かず                         い  ぶざまなる轟音たてて人の飛ぶ空にアオサギ溶けて去にけり  嵐一過うねり飛び行く雲間より深々青き空を見ている                       はり  東京にも夕焼けはあり金色に雲輝けるビルの窓玻璃  サンテック光に向けて飛び去りし空の下には海原静か  水々と輝く星に照り返り宇宙機もまた星の一粒  からっぽの空飛んで来る声だけどD・J心の糸電話だね  そら立って君の笑顔がきっとほら誰かの勇気になっているはず   (*)「NHK歌壇」(教育TV 99.2.5放送分)第二席入選歌       『 炎 天 』                     たっと  死ぬまでは生きねばならぬ終末期歌も思想も尊きモルヒネ  負けないぞ負けないぞと睨む空いったい何に勝てるというのか  空を越えて心優しき科学の子昔未来はバラ色たりし  マイナスにマイナス掛けてプラスとぞ零には何を掛けたって零  この場より消え去る者のために在る待合室とう虚ろな空間  炎天に西瓜砕けおり地獄への道ならせめて善意を敷かん     『道が白かった午後』 愛情を一本と数うCMの遠く聞こえし道白き午後 「愛」の文字あふるる街に嗅ぎ分けぬ微か漂うホームレスの汗 「乾杯!」と笑うカップルの右席で会いたくもなき人待つ渋谷 ひとひ 南より読まれ行く地を追いながら夏の一日を記す天気図 空重き八月の海に躁病の麦藁帽子飛び去り行きぬ     『 弔 歌 』                    しろ 濁流に易く呑まれし夏をいたみ掲げよ弔旗皚き日の丸 ゆかりなき近代日本の国歌たる運命古歌は悲しかるらん 型抜きの駄菓子のごとき歌の海に沈められ行く「パンク君が代」 満員の電車で押され倒るごと総背番号も決まって行きぬ 我が友よ探し物はなんですか答えは風に吹き飛ばされて