旧 創作工房 1〜10発言
- 小説:『王』(論可) Junk-Oh 100年 5月14日(日)21時23分07秒
- 小説:『宿敵(ライバル)』 論可 JUNK−O 99年12月30日(木)10時27分28秒
- 小説:『タフな男』(論可) JUNK−O 99年 9月25日(土)23時28分42秒
- 小説:『誕生パーティーへいらっしゃい』(論可) JUNK−O 99年 9月25日(土)23時26分27秒
- エッセイ:『敗残兵』 JUNK−O 99年 9月18日(土)21時30分04秒
- 詩:『記念日』 (論可) JUNK−O 99年 9月15日(水)09時47分50秒
- ↓注意 JUNK−O 99年 9月 9日(木)22時52分03秒
- 短歌:『道が白かった午後』 JUNK−O 99年 9月 9日(木)22時42分55秒
- 短歌:『弔歌』 JUNK−O 99年 9月 9日(木)22時40分35秒
- 短歌:『1999鎌倉夏祭り』 JUNK−O 99年 8月30日(月)21時46分15秒
- 小説:『王』(論可)
- Junk-Oh
- WWW極地
- 記録番号:00000010
- 記録日時:100年 5月14日(日)21時23分07秒
『 王 』
いまのまさし
この付近一帯は、古代小さな王国であったという。マンソンジュ村には、シ
ャトゥ・ド・ルージュと呼ばれる小山が残っているが、村人はここがかつての
王ユイサンの居城跡であると信じて疑わない。この王、伝承によれば若い頃は
気に入らないブフォン(王侯に仕えた道化)を処刑するのが趣味だったとか。
物騒な人ではある。ただ、王はのちには大変温厚になり善政をしいたという話
を・・・・(以下略)
(『仏蘭西田舎 de 赤恥泥酔紀行』おなみ・ゆう著
一九七四年)
・・・・fool の語源はラテン語のフォリス follis(〈ふいご〉の意)で,道
化の無内容な言葉を〈風〉にたとえたと思われる。他にも類語は多く,貴族・
富豪の痢宴に伴食したバフーン buffoon(これも〈風〉を意味するイタリア語
buffa に由来する),・・・・(中略)・・・・固定的な秩序へのおどけた批
判者,思考の枠組みの解体者という役割は,あらゆる分野の道化に共通して見
られる。
(『CD―ROM 世界大百科事典 第2版』「道化」の項 日立デジタル平
凡社)
道化虚なれば是実。王実なれど是虚。
(『虚言』与田 聡)
* * *
王の寝室にて、王の御書記役、筆記す。
すでに諸君は気づいているように、私は、もう永くない。
諸君、動揺する必要はない。なぜなら、私は諸君らの王たるユイサン王では
ないからだ。私は実は王ではないのだ。……そら、動揺するなと言っておるの
に……。
そうだ。たれか行って、私が四十余年前に封印を命じた一番奥の地下牢を開
けてみよ。そして、そこに何を見たか報告せよ。また、残っている品物があれ
ば、ここに持ってくるように。
さて諸君、しばらく我が数奇なる運命の物語を聞いてもらいたい。
確かにある意味では、私は王たるべき男であったとも言える。というのも、
私の祖父はどこかの小国の王位にあったという話で。
しかし、私が生まれた直後、謀反が起こり、父も祖父も討ち取られたそうだ。
私は皇太子妃であった母とともに間一髪、ひそかに城外に逃れることが出来
たらしい。それが幸いであったのか、それとも最大の不幸であったのか、私に
は未だに解らぬ。
結局、母は流浪の貧民に身をやつすこととなり、いつか旅芸人一座の下働き
となった。(もともと庶民の生まれであったことが幸いだったようじゃ)
物心がつくと、私は子役として舞台に立つようになった。母は私がまだ幼い
うちに亡くなったが、私は一座の者達に育てられ、いろいろな芸も身につけた。
得意は三つの球やピンを交互に投げ上げて回すジャグリング(お手玉)だった。
城から城、村から村、国から国を回っていく旅芸人には、危険も多い。
ある国境の森の中で、私のいた一座は野盗に襲われてしまった。皆てんでに
逃げちりぢりになった。
まだ年若かった私は、どこへ行くともあてがなかった。もし縁故があるとす
れば、それは我が祖父の国であったが、幼くして母と死に別れた私はその正確
な場所も国名も憶えていなかった。ただおぼろげに、どこらあたりの地方だっ
たかということだけは知っていたので、しかたなくその方角に向かって行くこ
とにした。
行く先々では、やれることはなんでもして、なんとか食いつないでいった。
苦しい旅ではあった。
やがてたどりついたのが、このマンソンジュの城下だった。
もうそのときには、銭も食料も底をついていた。なんとかして、食べ物と、
できれば屋根のあるねぐらが欲しかった。
そのとき目に留まったのがお城の布告だった。
『芸人は王の劇団係のもとまで申し出ること。才能を認めれば採用する。』
私はすぐに王城に参上した。王様付の芸人ならば安楽な生活も出来よう、と
思ったのだ。うまくいったなら、この地に根を下ろすのもいい。
係はその場で私にいろいろ芸をさせた。軽業、パントマイム、ジャグリング、
手品、楽器、歌、踊り、芝居。私はそのどれをも、そこそこにやってのけるこ
とが出来た。
私は即刻、王の劇団に登用された。
すぐに知ったことだが、マンソンジュのユイサン王は大変な暴君であり、か
つまた、芸を見る目も持っていた。だから、どんなにすばらしい才能を持って
いる芸人でも、ちょっと芸がつまらなくなったりすると、たちまち城を追放さ
れてしまい、おかげで劇団はいつも欠員を補充し続けなければならなかったの
だ。
劇団とは言っても、我々はいろいろなことをやらされた。とにかくお城への
来訪者を喜ばせて、王を満足させることが出来れば良かったのだ。
王の劇団員には衣食住こそ豊富に与えられたが、自由はなかった。ほとんど
城の一角に軟禁されているようなものだった。自分の意志で脱退することは出
来なかった。城から出るには王の怒りを買って丸裸で追放されるか、死体にな
って出ていくより他はなかったのだ。
もっとも、戦乱と不作と高い税に日々苦しめられてる下層の人々にとっては、
憧れの暮らしだったのだろうけれど。
さて、王の劇団員の一員ではあったが、別格に扱われる者がいた。
王の道化である。
王の道化は、いわば王のペットであって、いつでも王の側に仕えて御機嫌を
うかがう役であった。
それだけに待遇もさらに破格で、立派な個室まで与えられていた。しかし、
その一方で、絶対に失敗が許されない過酷な役割でもあったのである。
ある王の道化などは、あまりにも芸がつまらないというので、城の晩餐会の
時に大きな樽の上に細い板を渡した上に立たされた。王や来賓が問いかける言
葉に、当意即妙に応えるよう命じられ、もしつまらなければ、王達がその板を
木槌で力一杯叩くというのだ。
青ざめた道化は緊張すればするほど舌がうまく回らず、板は容赦なく叩かれ
た。その姿がおかしいというので、晩餐は多いに盛り上がったが、最後に道化
は足を踏み外して、樽の中に落ちてしまった。
やんやの喝采の中で、道化は絶命した。樽の中には毒蛇が何匹も入れられて
いたのだから。
王の道化が死んでしまったので、次の道化が選ばれることになった。
ユイサン王は私を指名した。
劇団の中には同情と嫉妬の入り交じった空気が流れた。しかし、誰も王の命
に背くことは出来ないのだから、どうになるものでもなかった。私は荷物をま
とめると、王の間近くの部屋へ移動した。驚くほど立派な部屋だった。変な話
だが、この部屋の立派さを見たときに、初めて私は言いしれない恐怖感を感じ
たものだ。
ユイサン王自らが指名しただけあって、とりあえず私は王の気に入られてい
たのだと思う。
私は一年中けばけばしい衣装を身につけ、王の行く先々にぴったりと付いて
いった。
王のお好みは、なんと王その人の物真似だった。
王が堅苦しい公式行事に臨むとき、その直前か直後に私がしゃしゃり出て、
王の仕草を大げさに真似してみせる。その私を王が杖でぴしゃりと打ちつけ、
人々が笑って場が和めば上々。
打たれ方だって芸がいる。大げさに痛がったり、ときには額から血が出てい
ても涼しい顔をすることもあった。いろいろな場で気の利いたことを言うため
には、王の政治や庶民の意識、歴史や文学の知識も学ばなければならなかった。
だが私は、たかが道化師の分際。堂々と何かを勉強しているわけにはいかない。
いつでも、何かに耳をそばだて、神経をとぎすましながら、私は知識と知恵
と強い意志を身にため込んでいった。それが生き延びていく唯一の方法だった
から。
やがて、私は王の政策を茶化すことまでするようになった。それを王はナン
センスなギャグと受け取ったのか、それともひとつの警句と受け取ったのか、
なんにしろいつも、おもしろがってはいた。私を打ち据える杖の力は、前にも
増して強くなったが。
ある夜のこと。
私は王の部屋で、王とふたりきりでいた。私は無意味な古典の引用をべらべ
らとしゃべりまくっていた。王が寝室に入ってしまうか、私に下がれと命令す
るまで、私は王の道化でいなければならなかったのだ。
だんだんにネタも尽きて、次に私は王を茶化し始めた。
―さても、ユイサン王というのは愚かで困る。周辺諸侯と張り合うために兵
隊の数ばかり増やし、若者を片端から徴用してしまう。ついには粉をひくのも
鹿を狩るのも年寄りばかり。おかげで、城の食卓に上る食べ物ときたら、モミ
がらの混じったパンとよぼよぼの獣の肉ばかりだわ。
―黙れ、道化が。
―黙れるものか。どうせ戦わぬ兵ならば、いっそ年寄りを兵隊にとって、兵
舎を養老院の代わりに使えば一挙両得。どうせなら、ユイサン王御ん自らが養
老兵舎に入ればよかろう。
―こやつめ!
王はいつものように、王杖を振り上げて、私の眉間めがけて振り下ろしてき
た。
どういう魔が差したのか。私はおもわず体をかわし、それを避けてしまった
のだ。
王は初め怪訝そうな顔をしていたが、やがて顔色を変えた。
―おまえ。王の杖を避けおったな。
王の声は低く響き、ただごとならない雰囲気を漂わせていた。
―避けたがどうした! このよぼよぼの腰抜け王よ……。
しくじったとは思ったが、ここはいつもの道化のスタイルで切り抜けるしか
ない。そう判断した私は、毒舌を返してもう一度王の杖が飛んでくるのに身構
えた。しかし、声が震えるのはどうしようもなかった。
王は私の予想に反して杖を投げ捨てると、腰の剣をゾロリと抜いた。
私はおもわず飛びすさった。
―道化。おまえは取り返しの付かない間違いをしでかしたぞ。
王はじりりと間合いを詰めてきた。
―よいか。道化は打たれるために在るのだ。下郎どもがさまざまに持つ王へ
の不満、恨みつらみを公然と言い放つ権利は道化だけに与えられておる。なぜ
か? そのような放言を放つものは直ちに王によって成敗されるということを、
あらゆる者どもにいつも繰り返し見せつけるためじゃ。さすれば、道化の言葉
が辛辣で、下々の現実の不満に近ければそれだけ、王がそれを打ち据えること
の意味が増す。
私の背中を冷たい汗がひとすじ流れていった。
―おまえは、今その一番肝心なところで全てをひっくり返してしまったのだ。
王の批判者が王の制裁をかわしたら、いったいどうなる? それは謀反に他な
らぬではないか!
王は大剣を振り上げると勢いをつけて、私の頭めがけて振り下ろしてきた。
私は夢中で逃げた。
王の剣は宙を切り、たまたまそこにあった机の縁に深々と刺さった。王は、
それを渾身の力で引き抜こうとした。
その時、私の目に入ったのは壁に掛けられた戦斧だった。何も考えられなか
った。私は本能のままにそれをひったくると、王の背中へめがけて振り下ろし
たのだ。
私はその後のことをよく憶えていない。
物音を聞きつけたのか、総理大臣がひとりでやってきたのは確かだが。
大臣は部屋の様子を一目見て、何があったのか悟ったようだった。大臣は言
った。
―道化、命が惜しいか? このままいけば、おぬしは八つ裂きじゃ。じゃが、
わしの言うことを聞けば命だけは助けてやろう。
私はただ惚けたように頷くしかなかった。
大臣は、どこからか油紙と大きな麻袋を抱えてきた。(あとから考えれば、
王の間の控え室から持ってきたのだろう。)大臣に促されて王の遺体を油紙に
包み、麻袋に押し込んでしっかりと口を縛った。
それから大臣は私に、隣の寝室に入って内側から鍵をかけ、なにがあっても
絶対に出てくるなと命じた。
ガタガタと震えながらも、王の寝室の壁に耳を付けて様子をうかがっている
と、やがて下働きの者が何人か呼ばれてやって来たようだった。ごそごそと物
音が聞こえ、それも静かになり、やがて朝が来た。
私はつかの間床の上で寝入ってしまったらしい。人の気配に驚いて飛び起き
た。
大臣が合鍵で入ってきたのだった。豪華な朝食の盆を手にしていた。
大臣の説明は概ねこうだった。城の下働きに小金を与えて、麻袋は地下牢の
床下に埋めさせた。一緒に私の荷物一切も同じ牢に運ばせて、そこを王の命令
として封印した。王の部屋の中も密かに片づけさせ、凶行の痕跡を一掃した。
さらに今朝、王の道化が夜中に城から脱走したので、必ずや探し出すようにと
のお触れを国中に出した。
―下働き達には堅く口止めをしておいたが、いずれ、王が道化をお手討ちに
して密かに埋めさせたと噂が立つじゃろう。さて、それでじゃ……
大臣は私を睨みつけた。
―今、我が王国は大変微妙な時期に来ておる。内側では王の横暴に貴族も民
も不満を爆発させる直前じゃ。国外にあっては周辺諸国が機会があれば我が国
を併合しようと、虎視眈々と狙っておる。そんな時に王が道化に殺されたとあ
ってはどうなるか。
―このような大それたことを、やろうと思ってやったわけではありません。
はずみだったのです。なにとぞお慈悲を。
―よろしい。では、おぬしが今日から王になれ。
―……な、なんと申されました?
―おぬしの芸は王の物真似であろうが。髪と髭を伸ばして少し舞台化粧をし
てやれば、遠目からならわかるまい。なに、命令や布告は万事このわしがやる。
おぬしは言われたとおりに王を演じておれば良いのじゃ。
大臣はなかなか巧智に富んだ人で、王は流行病(はやりやまい)にかかった
ということにしてしまった。これで私は当分寝室の外に出なくて良くなった。
またどこかの旅芸人の一座を偽物の医師団に仕立て上げて連れてきて、いかに
も治療をしている振りをしながら、私をユイサン王へと変身させていった。
幸い妃はいなかったのでよかったのだが、側室や王の近くにいた使用人達に
は少しずつ暇を出し、やがて聡入れ替えしてしまった。一年後には、私は王と
して「デビュー」した。
数年間は政治は総理大臣が実質的に運営した。私は木偶として王の顔をして
いれば良かった。
しかし、その大臣も病に倒れる時が来た。私は、ついに自分で国を運営せね
ばならなくなったのだ。大臣は小声で「おぬしならやれる」と言い残して息を
引き取ってしまった。
どうしたらいい?
しかし、私はしょせんは道化だ。政治においても道化るしかないではないか。
それなら今までの王のやり方の正反対をやってやろうと考えた。
貴族よりも農民が、男よりも女が偉いという布告を出した。一生懸命働く者
を叱責し、のんびり生きている者を表彰した。
税金は金持ちからより多く取るようにし、戦争は一切やめた。ついには王が
政策を指示するのもやめてしまった。みんな民が相互に選んだ大臣達にやらせ
ることにした。
おかげで、領土は減り、国は貧しくなった。一番没落したのは王と城だ。
ただ、その分、私はずいぶん気が楽になったよ。民もなにやらのんびりと暮
らしているようではないか。
ははは。許せ。しょせんは道化の政治だ。戯れの政治だ。
これからは皆の好きなようにするが良い。
おお、そうか。地下牢から遺体が見つかったか。それが本物のユイサン王で
あらせられる。手厚く葬るように。そして、それが牢に置いてあった箱か。な
つかしい。それが私の道化の道具箱なのだ。
* * *
「そちらは、わしの話を信じておらんようだな。」
王は、ベッドの中から臣下を目の動きだけで見渡しながら言った。
「さしづめ、王にはかつて殺した道化の悪霊がとりついているとでも思って
いるのであろう。誰か、その道具箱を開けてみよ。その中に白い玉が三つ入っ
ていると思うが。」
地下牢から荷物一式を運んできた衛兵の一人が、短剣の小柄で箱をこじ開け
た。確かにそこには、派手派手しい衣装や、マスクや、カードなどにまじって、
色はすっかり灰色に変色していたものの、子供のこぶし大の木製の白球が三個
入っていた。
王は体をゆすると、ベッドの上に起きあがろうとした。
すかさず侍従が、その半身を支え、背中にクッションをあてがった。
王は大きく息をついた。
「こちらへ持て。」
王の手に白球が渡された。
王は右手に二個、左手に一個を握ると、しばらくその感触を確かめているよ
うだった。
突然、病人とは思われない、はっきりとした声が発せられた。
「東西! 数々演じて参りましたれど、いよよ王の道化の最後の出し物。三
ツ玉のジャグリングでござぁい。うまく回りましたらお慰みぃ!」
王の手から白球が軽やかに舞い上がった。
その球はすぐに次々ぽたぽたと床に落ちていったが、そこに居合わせた人々
には、三つの球が鮮やかに宙にくるくると円を描いたように思えた。
「老いぼれたものよ。」
荒い息の下の王のつぶやきは誰にも聞き取られなかった。
続いて王は、今度は皆に聞こえるくらいの声で、
「しばらく休む。」
と言い置き、静かに瞼を閉じたのだった。
(了)
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- 小説:『宿敵(ライバル)』 論可
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000009
- 記録日時:99年12月30日(木)10時27分28秒
宿 敵(ライバル)
いまのまさし
警察署の取調室に、どんよりとした朝の光が射し込んでいた。
中年の刑事が不機嫌そうに窓を開け、窓枠にはまった鉄格子を神経質に眺め
た。やおら手を出し、夜中に張られた蜘蛛の巣の中央から、小さな蜘蛛をつま
むと、窓際の小机のティッシュボックスから一枚抜いて、そいつを堅く丸め込
んでゴミ箱に投げ込む。
上を向きながらしゃべるのは、今度は部屋の天井の隅をぐるりと見回して、
他に蜘蛛の巣がないか点検し始めたからだ。
「なんで、俺がこういうヤマを担当しなきゃならねぇんだ。」
「ぼくに八つ当たりしないで下さいよ。」
中央の机の脇に座って書類を調べていた若い刑事が、にらみつけるようにし
て答えた。相性が良くない。蜘蛛を執拗に探し出しつぶしていく姿に虫ずが走
る。
「取材記者(ブンヤ)、増えてたか?」
「あ?ええ。もう玄関前はごった返しですよ。そりゃ、通り魔殺人ですから
ね。」
「ふん、モーニングショーの時間だしな。みんな楽しんでやがるのさ。自分
にゃテンから無縁だと思ってるんだ。」
さも心残りがある風に視線を天井から引き下げると、中年刑事は椅子に腰掛
け書類をめくる。
「午後六時半の駅前。多数の目撃者のいる前で被害者(ガイシャ)の頸動脈
をサバイバルナイフで一切り。交番から駆けつけた巡査におとなしく逮捕され、
直後の取り調べにも落ち着いていて、氏名、住所、職場など身上の供述は正確
で協力的。しかし・・・・動機だけはあいまいだ。薬物反応は?」
「まだ、科研に資料送ったばっかっすよ。」
「ようするに、これなんだろ。」
中年は頭の横で人差し指をぐるぐる回す。
開け放したドアの外に人の気配がした。
「64番連行しました!」
おとなしそうな男が制服警官に促されて、取調室の中に入ってきた。薄青い
囚人服を着せられている。おそらく大量の返り血を浴びた私服は、証拠として
押収されてしまったのだろう。
男は言われるままに椅子に腰掛けた。
「どうだ、留置場の独房は。眠れたか?」
「おかげさまで。さすがにちょっと疲れてたみたいで、ぐっすり眠れました。
」
ちょっと肩をほぐすように首を回しながら、男は悪びれない調子で快活に答
えた。
「・・・・ま、いいだろ。さて、悪いがもう一度、何が起こったか話してみ
てくれ。」
「いつから話せばいいんです?」
「とりあえず、昨日会社を出たところからでいい。」
「昨日、仕事は定時で終わって、いつもどおり電車に乗って帰りました。途
中寄り道はしてません。電車に揺られていると、ふとヤツが、敵(かたき)が
いるのがわかったんです。」
「そういうカンがしたと・・・?」
「カンじゃありません。そういう能力があるんです。というより、ヤツを見
つけだす能力があるからこそ、ヤツとの長い腐れ縁が続いている訳なんですけ
どね。
「それで途中で、普段来ることのない方面の電車に乗り換えて、この町の駅
で降りました。駅前でしばらくじっと待っていると、案の定ヤツがやって来ま
した。」
「ヤツというのは、あんたが斬りつけた芋野浅士だね。」
「その人のことは知らないんです。初めてあった人なので。でも、あれは間
違いなくヤツでした。で、ここで逃がすと、必ずまた会える保証はありません
し、たぶんまだヤツは目覚めてないだろうと思いましたので、絶対ここで決め
てやろうと、走って近づき一気にとどめを刺したのです。
「え? ええ、ナイフはいつも持ち歩いています。いつヤツに会ってもいい
ようにね。」
二人の刑事は困惑して、ちらりと顔を見合わせた。
「ねえ、おじさん。あなたの言ってることは支離滅裂だ。被害者と面識がな
いと言いながら、昔からの敵だとも言う。もうちょっとわかるように説明して
もらいたいね。嘘つこうとしてもダメなんだよ!」
「嘘だなんて。だって、わたしだってヤツに殺されたんですよ、シジミチョ
ウだった時に・・・・。」
若い刑事は、ばんっと机を叩いた。
「いいがげんにしろっ!」
「まあまあ。とにかく話の続きを聞こう。」
中年刑事は、若いのをなだめながら、男を促した。
「わたし前世は蝶だったんです。ただ本能のままに暮らしてました、なにせ
蝶ですからね。ある日、花壇のヒヤシンスの花に近づいた瞬間、カマキリに捕
まってしまいました。
「むしゃむしゃっとやられたところで初めて覚醒したのです。それでわかり
ました。ああ、このカマキリがヤツなんだと。その時にはもう身体のほとんど
を喰われてましたがね。」
「それじゃ、なにか? 被害者は前世であんたを喰ったカマキリの生まれ変
わりだったというのか? それを恨んで殺したと。」
「いえいえ。なにもそれを恨んでるってだけでもないんです。なぜって、蝶
になる前、わたしイカだったんですけど・・・・」
若い刑事は椅子をひっくり返して立ち上がった。中年刑事は彼を目で制した。
「イカというのは、御存じ無いかもしれませんが、海の中では相当にすばや
い捕食者なんです。目に付いたものにはなんでも食らいついてましたね。
「それがある時、ふいに覚醒したのです。自分に宿敵(ライバル)がいるこ
とを思い出したんです。わたし必死に探しましたね、ライバルを。さっき言っ
たように、いつでもヤツがいる方角は自然とわかるんです。
「そのときは、ヤツは鰯でした。すごい群の中にいたんです。でも、わたし
にはわかりましたね。狙い違わずガシっと捕まえてやりましたさ。」
「・・・・前世は蝶、その前はイカ、じゃ、その前はなんだったんだよ!」
「ムクドリでした。」
若い刑事は絶句した。
「いいですか。われわれは、もう何十億年にも渡って、いろんなステータス
に生まれ変わりながら闘ってきたんです。―そう、初めはプランクトンでした
よ。
「これが宿命なんです。何故かって? だってそうでなきゃ、なんで生まれ
変わるたびに覚醒して前世の記憶を取り戻すんでしょうか・・・・。ねえ刑事
さん、わたし死刑になりますよね? 」
「なんだ、人を殺しておいて自分が死ぬのが恐いのか。」
「いえ、そうじゃなくて。なるべく早く死刑にして欲しいと思ってるもんで。
」
「なんだと。」
「その・・・・。なるべく早く転生したいんです。ライバルよりもなるべく
早く生まれ変わるのが、勝利のカギなんです。相手が覚醒する前に自分が目覚
めていた方が絶対に有利なんです。まあ、寿命の短い生き物に生まれる場合な
ど、必ずしもそう言えるわけでもないのですが。なんにしても、なんとか早く
殺して下さい。お願いします。」
容疑者が去ったあとの取調室には、不快な空気が漂っていた。
「やっぱり、精神鑑定っすかね。完全にイかれてるのか、そういうフリをし
てんのか。」
「うん。確かにやつはおかしい・・・・。早く死にたいのなら、なぜ死刑を
待つ? 相手を殺したあと、すぐに自殺すればよかったのに。」
「え? ああ、そうですね。やっぱりフリなのか。」
「それとも、自殺すると次の転生で高いステータスに生まれ変われないとい
う法則でもあるんだろうか?」
「うーん、どうですかね。自分は宗教とか詳しくないんで。」
「ただ・・・・。」
「はい?」
「やつの言ってたことで、気づかされたこともある。」
「?」
「ライバルが自分と同じステータスに生まれ変わっていることもあるという
ことだ。」
「? ? ? 」
「俺は前世は蝿だった・・・・。」
「ちょっと、やめて下さいよ、先輩。」
「ところがあるとき、蜘蛛の巣にひっかかっちまったんだ。蜘蛛の野郎にす
ぐさまグルグル巻きにされた。悔しいことに、その時になってやっと覚醒した
んだ。この蜘蛛がライバルだったんだってな。」
「・・・・。」
「そして、俺は人間に生まれ変わった。覚醒したのは二十歳(はたち)を過
ぎてからだったがな。それが、ここ数年、すぐ近くにライバルがいるという強
い勘がするようになってきた。
「いったいやつは、どんな生き物に生まれ変わったのか? はっはっは。盲
点だったぜ、まさかやつが自分と同じステータス・人間だったとは、思いもよ
らなかった。」
「・・・・先輩、今日はちょっと休んだ方がいいですよ。疲れてるみたいだ。」
中年刑事はニタリと笑った。
「おまえ、まだ思い出さないのか? 自分が蜘蛛だったときのことを・・・・」
数発の銃声に驚いて、取調室に駆けつけた警官たちが見たのは、血の海の中
に倒れている若い刑事と、その姿を満足そうに見下ろす中年刑事の姿だった。
彼は、一瞬なにかにためらったあと、やって来た警官たちの驚く顔を楽しそ
うに眺めながら、手にした拳銃の銃口を、ゆっくり自分のこめかみにあてがっ
ていった。
(了)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次回の「月の魔法」用に書いたショートストーリーです。
テーマは「輪廻」でした。一足早くこちらで公開します。
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- 小説:『タフな男』(論可)
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000008
- 記録日時:99年 9月25日(土)23時28分42秒
「 タ フ な 男 」
いまのまさし
俺が艇長を務める火星航路の宇宙貨物艇「デジャーソリス」が、地球外周期
道に乗ったとたんだった。突然、コクピットを激しい衝撃が襲った。
フロントパネルが爆発し、俺は顔面を炎で焼かれた。
「艇長! 大丈夫ですか!」
機関長が駆け寄ってきた。
「目をやられた。何が起きたんだ?」
「流星か宇宙のゴミが衝突したようです。電気系統がイカれてます。」
もうひとりの乗組員である見習い航宙士が、包帯を持ってきて俺の頭をぐる
ぐる巻きにした。
俺は二人に船外服の着用を命じ、自身も見習いに手伝わせて宇宙服の中に潜
り込んだ。機関長は被害状況を調べるため、機関区域と貨物区域に降りていっ
た。
再度の衝撃が起きた。
「メイン電圧が急速に低下してます! 酸素発生装置停止! 機関区域オール
レッド。機関長の反応ありません! き、機体が回転してるっ!!」
見習いが次々と叫ぶ。
二次爆発だ。おそらく外壁の一部は吹き飛んでいるだろう。
「全隔壁閉鎖。操縦区域の他は電源供給を停止しろ。自動システム解除、非常
システムに切り替え。それから宇宙観制センターを呼び出せ。落ち着くんだ。」
事態を報告すると、統合宇宙管制局は即座に第一級遭難事件に指定してくれ
た。これで少なくとも労災にだけは認定される、という意味以上ではなかった
が。
さらにありがたいことに彼らは、この船がドッキング予定の宇宙ステーショ
ンの軌道とは全く高度がずれてしまっていること、というより、すでに地球の
引力に引かれて落下が始まっていることも教えてくれた。
「脱出用シャトルで本体から離脱できますか?」
妙に声の質の明るい男のオペレーターが訊いてきた。
「機体が回転していてタイミングが難しい。下手な方向に飛び出して、軌道補
正にシャトルの燃料を使いすぎると地上に戻れなくなる。地球側に向いてしま
ったらそのまま大気圏に突入して、こんな小さなポッドはすぐ燃え尽きてしまうだろう。」
「現在そちらに接近して救助活動の出来る宇宙船はありません。貨物艇本体が
地上に落下して被害が生じる可能性を考慮すると、管制局としては30分以内
に誘導ミサイルで貴艇を破壊せざるを得ません。なんとかそれまでに脱出して
欲しいのですが。」
絞首刑と電気椅子、どちらでも好きな方を選べるというわけだ。
「了解、脱出する。」
「艇長、ぼくらもうダメなんですか・・・。」
若い見習は半べそをかいている。
「そんなにビビるな。最後に生死を分けるのは精神力だ。俺は何度も死ぬ目に
遭ってきたが、こうやって生きている。
「一度なんか、船外服のまま、木星の外の宇宙空間を20時間以上漂流したこ
ともあるぞ。その時俺がどうしたと思う? 眠ったんだ。酸素の消費量を抑え、
体力を維持しようと思ってな。
「俺は普通のパイロットみたいに睡眠薬は使わん。目をつぶってゆっくり数を
数えれば眠れるように訓練してきたんだ。どんな状況でも眠れる。いいか、タ
フな精神があればどんな問題も乗り切れる。がんばれ。」
とは言ったものの、事態は最悪だった。生きてるだけより悪いとさえ言える。
俺は見習いに、船の回転状況や脱出システムの作動チェックなど、必要と思
われるあらゆるデータを読み上げさせた。問題は脱出用エンジンの噴射のタイ
ミングだ。目の見えない俺のカンだけが頼りなのだ。
見習いがロケット点火ボタンを、俺の手に押し込んだ。
「いいか、20秒間だけ時計をカウントしろ。そのあと5秒に一回Z軸方向の
回転角度を読み上げるんだ。俺がタイミングを計って脱出ポッドを発進させる。」
「はい、いきます。00分00秒、1、2、3・・・・」
俺は頭の中に時計の秒針を描き出した。
「18、19、20。」
(・・・・21、22、23。)
「回転角、176.5、・・・・181.0、・・・・185.5。」
(48、49、50、51・・・・。)
「199.0・・・・、艇長? 艇長! しっかりして下さいっ!!」
俺が重大なミスに気づいたときには、すでに頭の中に綿が充満した感覚だっ
た。習慣は恐ろしい。俺はあっという間に深い眠りの中に落ちていったのだっ
た。
(了)
(1999.9.25 星街通信版)
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- 小説:『誕生パーティーへいらっしゃい』(論可)
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000007
- 記録日時:99年 9月25日(土)23時26分27秒
「誕生パーティーへいらっしゃい」
いまのまさし
「鬼之江。また残業か?」
芋野先輩がネクタイをゆるめ、上着を肩に掛けた格好で近寄ってきた。
「いやあ、すぐ終わりますから。」
「お前だけは、8月病はないだろうな、その元気なら。ま、がんばれよ。」
あっさり言うと、先輩はドアを開けて出ていった。室内に残ったのは、ぼく
一人だけだった。
ぼく鬼之江定男は、今年入社のまだ新人だけれど、この会社では、どういう
わけか8月になると、急に黙って会社をやめてしまう者が多いのだと言う。社
内ではそれを「8月病」と呼ぶらしい。
別に仕事がおもしろいとも思わないが、何とか潜り込んだ会社だし、辞める
つもりはない。そうかと言って、他人より頑張るつもりもないのだが。
ただ、今日の残業は特別だ。麗子さんの仕事だから。
昼過ぎに、ぼくの机の脇を、書類束を抱えた麗子さんが通りかかった。
「困っちゃったなー。」
小さなタメイキ混じりの声が聞こえたので、すかさずぼくは、
「どうかしたんですか?」
と、声を掛けた。
麗子さんは誰もが認める社内一の美人。美人、と言うよりむしろ妖艶と言っ
た方がふさわしい、フェロモン全開のとびきりの、もうなんというか、アレな
のだ。(デレデレ)この会社に入って良かったと思ったのは、麗子さんがいた
ことだけだと言っても良いくらい。
「これ明日までに入力しなくちゃならなくなったんだけど、あたし今日は開発
の方で仕事が入ってるの。困ったわ。」
「なんだ、それならぼくやりますよ、入力。」
さほどの仕事量とは思わなかったので、点数稼ぎに気楽に引き受けたのだが、
どうしたわけかケアレスミスを連発してしまい、妙に時間がかかってしまった。
おかげで残業。バイオリズムのせいなんだろうか?厄日なのか?
会社を出たのは、たぶん最後だった。守衛さんに嫌な顔をされながら、腰を
低くしてオフィスを出てきた。
駅に向かって歩いていると、後ろから声がした。
「定男くん。まだ仕事してたの。」
驚いて振り返ると、そこにいたのは、なんと麗子さんだった。
「あ、阿久先輩。」
「なによ、麗子でいいわよ。あたしの仕事で残業になっちゃったの? ごめん
なさいね。」
「いえ、そういうわけでもないんですが。先輩・・れ、麗子さんは?」
「え? ああ、開発の方で手間取っちゃって・・・・。ご飯まだでしょ。お詫
びにおごるわ。うちにいらっしゃいよ。」
「えっ! でも、それは。そんな。」
ぼくの目の前は、桃色に染まった。
「今日はね、あたしのお祖母ちゃんの誕生日なの。」
ラフな服に着替えた麗子さんは、リビングのテーブルにハムやチーズや生野
菜を運んできた。ぼくはソファに緊張して座っていた。
「とりあえず、それ食べてて。・・・・毎年あたしのところで誕生祝いをやる
ことになってるの。田舎から、お祖母ちゃんや親戚がいっぱい来るのよ。」
ぼくはサラダを口にした。
「辛いっ。」
「あら、ごめんなさいね。おばあちゃん、味の濃いのが好きなものでね。」
キッチンから再び出てきた麗子さんに聞かれてしまった。
「いえ、大丈夫です。ぼくも味の濃い方が好きですから。」
麗子さんはグラスにワインを注いでくれた。
ぼくは口直しのつもりで、がぶりと飲んだが、味は最低だった。麗子さんっ
て見かけによらず、案外と味音痴なのかもしれない。
どこかでピーピーと電子音が聞こえた。
「あら、お風呂が沸いたみたい。先に入って。」
「ええっ! でも・・・・」
「さ、こっちよ。」
麗子さんは、ぼくをバスルームに連れていった。
ぼくは頭の中を混乱させながら、シャワーを浴びた。
これはどういう展開なのだろう? お祖母さんの誕生パーティと言っている
が、こんな時間になっても誰も来ている様子がない。それに、むりやり風呂に
入れさせるのもかなり変だ。これは、ひょっとすると、パーティなんて口実で、
実はぼくのことを・・・・。
(ぼく食べられちゃうのかなー、とか、でっへへへへっ。)
なんかもう、どうなってもいい、って気分。
驚いたことに、バスルームを出ると、ぼくの洋服が無くなっていて、替わり
に洗い立てのナイトガウンが置いてあった。
仕方なく、ぼくはそれを着て、リビングに戻った。
「麗子さん、これは。」
「ごめんなさいね。お祖母ちゃん、けっこう潔癖なの。」
「?」
なにか、胸騒ぎがした。おずおずと、麗子さんの向かい側の、壁際のソファ
に腰を下ろしたとき、遠くで放電音のようなものが聞こえた。かすかにオゾン
臭が漂う。
「あら、来たわ。」
麗子さんが、ぞっとするほど美しい笑顔で言った。
放電音はだんだん近くなり、生臭い臭いが混じってきた。
いくつもの笑い声がした。ぼくの背後から。
ぼくは、テーブルの上に置いてあるワインのラベルをそっと見た。
『調味用』だった。さっき麗子さんは、サラダに味付けしたのではなくて、
ぼくに味付けしたのだとわかった。
何か、ぬめぬめしたものが、ぼくの頬に触れたが、ぼくは硬直したまま動け
ない。
「いらっしゃい。お祖母ちゃん! みんなも元気そうねえ。今年も生きのいい
御馳走を用意しておいたわよ。お誕生日おめでとう!」
(了)
(1999.9.25 星街通信版)
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- エッセイ:『敗残兵』
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000006
- 記録日時:99年 9月18日(土)21時30分04秒
< そこで一首シリーズ >
「 敗 残 兵 」
いまのまさし(JUNK−O)
東京・池袋で、青年が通行人に刃物で襲いかかり、死傷者を出した無差別通
り魔殺人事件。その少し前には、自分の操縦でレインボーブリッジをくぐりた
いとジャンボジェットをハイジャックした青年が、機長を刺し殺した事件。さ
らに、その前奏曲には神戸の酒鬼薔薇事件があった。
かつて、アメリカで動機があいまいな無差別大量殺人がおこり始めた頃、そ
の犯人の中心はベトナム帰還兵だった。勝った戦争なら英雄だが、負けてしま
えば薄汚い殺人者にすぎない。彼らはプライドもアイデンティティも、ついで
に職さえ奪われていた。(そのあたりの鬱屈は映画「ランボー」なんかに読み
とることもできよう。)
社会は、負けた兵士を再び受け入れることを拒否し、彼らの暴走を促したの
だ。
今、アメリカでも日本でも、動機無き無差別殺人の中心には青少年がいる。
彼らもまた、敗残の兵士ではなかろうか?、受験戦争や「実力」社会と呼ば
れる戦場における・・・・。
この国に戦場無きや通り魔の青年敗残兵の目をして捕らわる
(Creative Synapse 1999.9.18版)
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- 詩:『記念日』 (論可)
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000005
- 記録日時:99年 9月15日(水)09時47分50秒
ぼくの声は小さすぎて
隣の人にさえ聞こえない
そうだとすれば
ただ微笑む以外
ぼくに何ができるだろう
破壊は創造よりもたやすく
憎しみは許しよりもたやすく
剣で刺すのは傷を癒すよりも
なんともたやすい
声を上げる前までのぼくに
希望があった
声を挙げたあとのぼくに
絶望が残った
人が人を憎むのには理由があり
無条件の許しには根拠がない
人が平等になって
あらゆる優劣が消え去ってしまうことに
我慢できない人も多かろう
憎しみと恐怖と理不尽が
いくらあっても生きてはいける
多数決は善なのだよ
そうだとすれば
ぼくは多数に従おう
だから
氷のような純白の
鮮血のような紅の
日の丸も今日掲げよう
ただし
それは永遠に半旗のままだ
今日を記念・・・するために
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- ↓注意
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000004
- 記録日時:99年 9月 9日(木)22時52分03秒
どうも、半角空白だと、ルビがうまく表示位置に動かないようです。
下の作品の「ひとひ」は、もちろん「一日」のルビです。
ヨロシクお願いします。
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- 短歌:『道が白かった午後』
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000003
- 記録日時:99年 9月 9日(木)22時42分55秒
「道が白かった午後」
愛情を一本と数うCMの遠く聞こえし道白き午後
「愛」の文字あふるる街に嗅ぎ分けぬ微か漂うホームレスの汗
「乾杯!」と笑うカップルの右席で会いたくもなき人待つ渋谷
ひとひ
南より読まれ行く地を追いながら夏の一日を記す天気図
空重き八月の海に躁病の麦藁帽子飛び去り行きぬ
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- 短歌:『弔歌』
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000002
- 記録日時:99年 9月 9日(木)22時40分35秒
弔 歌
しろ
濁流に易く呑まれし夏をいたみ掲げよ弔旗皚き日の丸
ゆかりなき近代日本の国歌たる運命古歌は悲しかるらん
型抜きの駄菓子のごとき歌の海に沈められ行く「パンク君が代」
満員の電車で押され倒るごと総背番号も決まって行きぬ
我が友よ探し物はなんですか答えは風に吹き飛ばされて
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- 短歌:『1999鎌倉夏祭り』
- JUNK−O
- WWW極地
- 記録番号:00000001
- 記録日時:99年 8月30日(月)21時46分15秒
アフリカと日本の音にトンビ舞う鎌倉の夏にTakako溶けゆく
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